EPISODE
11
大量服薬と昼夜逆転生活を改善したのは、
穏やかなコミュニケーションでした。
認知症ケア
75歳 (女性) I様 /ウェルケアガーデン馬事公苑
2021.06.02

認知症による依存度が高く、時にはご家族への暴言も。

I様はアルツハイマー型認知症を発症されており、息子様と同居されていたものの、近くに住む娘様が介護に通っていらっしゃいました。認知症による依存度が高く、娘様がお世話に行くとなかなか帰らせてもらえないこともたびたび。暴言等もあり、「ホームで専門的なケアを受けた方が母の幸せになるのでは…。」と、当ホームへご入居に至りました。

13剤もの薬を服用し、常にボーっとお過ごしでした。

ご入居時には、認知症の症状をやわらげるために、向精神薬や誘眠剤など全部で13剤もの薬を服用されており、常にボーっとしている状態で表情も乏しく、完全に昼夜逆転しておられました。また、帰宅願望が非常に強く、頻繁に「いつ家に帰れるの?」と聞いていらっしゃいました。 ご自宅で事業を営んでいらっしゃったのですが、従業員の方のお名前を口にしては「○○は今どこに行っているの?」と何度もお聞きになるなど、回帰型認知症の症状が顕著に表れていました。

生活歴をヒントにコミュニケーションを深めることで、気持ちが安定し、信頼関係も生まれました。

ご高齢の方にとって新しい環境での生活は馴染みにくく、大きな不安を伴いがちです。特に認知症の方はその傾向が強く表れます。そのため、ご入居に際してのアセスメント時に、I様のそれまでの生活のご様子についてご家族から時間をかけて丁寧に聞き取り、ご本人の人となりを知ることから始めました。 そして、I様が昔の記憶でお話をされている際には、その生活歴をヒントに会話を。例えば、従業員の方のことを気にかけていらしたら、その方のお名前やニックネーム、取引先などを織り交ぜながら「今日○○さんは□□へ行っていますよ。」と対応することで気持ちが落ち着かれます。そうして次第にコミュニケーションが成り立つようになった結果、生活改善のためのリハビリをたいへんスムーズに行うことができました。

多岐にわたるリハビリが功を奏して、今ではホームでの生活を楽しまれています。

コミュニケーションによる信頼関係づくりと並行して、十分な水分ケアと歩行訓練を開始するなど、身体的なリハビリも開始しました。昼夜逆転の生活改善のためにスタッフの勤務シフトを変更し、睡眠前の軽い運動や足湯によって血行を良くして睡眠を促す“睡眠リハ”と減薬対応を実施。その結果、2週間ほどで生活リズムが改善されました。また、服用する薬の量は当初の13剤から5剤までに減らすことができました。 ご入居当初は硬い表情のままで「家に帰る、帰る。」の繰り返しでしたが、現在では会話や冗談を交えたコミュニケーションが取れるまでに回復。昼夜逆転の生活も改善し、帰宅願望もほとんどなくなりました。トランプや麻雀、パターゴルフなどのアクティビティにも積極的に参加され、ホームでの毎日を楽しまれています。 娘様が面会からお帰りになる際には「またね。」と挨拶され、かつて依存度が高かったお母様の変貌ぶりに娘様は驚き、たいへん喜んでいらっしゃいます。歩行訓練も継続中で、U字歩行器を使って歩かれるまでになりました。ご自身の足で歩かれることが大きな喜びにつながり、晴れ晴れとした豊かな表情を見せられるようになりました。