EPISODE
04
「もう一度泳ぎたい。」
シニアマーメイドの夢を叶えるために。
リハビリテーション
95歳 (女性) D様 /ウェルケアガーデン馬事公苑
2021.06.02

転倒骨折によって要支援1から要介護4へ。

ご入居当初は杖歩行ではあったものの、すべてご自身の意思で生活されていました。ところが、ご入居から4年ほどたったある日、居室前で転倒。骨盤の複数ヵ所骨折により入院となってしまいました。
ご高齢のため手術はせず、保存的治療となりましたが、約2週間の入院期間を経てホームに戻られた時には、要支援1だった介護度が、日常生活のほぼ全般について介護を必要とする要介護4になってしまいました。

退院後、ご本人に転倒時の状況を改めてお伺いすると、「急にふらふらして、思わず座ってしまったの。」と困惑されていました。当時、水分摂取量は1500ml以下で、さらにD様は下剤を服用されていたことから水分が多く排出され、水分欠乏による全般的な活力低下、動作不安定、歩行のふらつきが原因となって転倒されたのではないかと考えられました。

「入院前のように歩けるようになりたい。」「プールにも行きたい。」というご希望を叶えるために。

車イスでの退院となってしまったD様ですが、「入院前と同じように歩けるようになりたい。」というご希望をお持ちでした。さらに、D様はかつて日本泳法の指導者をされており、「昔通ったプールを見に行きたいわ。」とも仰っていました。 そんなご希望を叶えるために、リハビリの目標を『再度杖歩行ができるようになること』と『下剤を使わない自然排泄』とし、そのための4つのケアプランを立てました。 ① 入院中の水分摂取は一日約550ml程度でしたが、1800mlを目標とし、カルピスやゼリーなどの嗜好品も補助としてご提供する。 ② 入院中のお食事は全粥と軟菜食で700kcal程度しか摂取できておらず痩せられていました。そこで、お食事は椅子に座って召し上がっていただき、義歯を調整して常食に戻すことを目標としました。 ③ 排泄は腸内環境改善を心がけ、最終的に下剤の中止と自然排便を目指しました。 ④ リハビリは、活動量増加と筋肉強化のためにパワーリハビリを実施し、U字歩行器での歩行から始めて、最終目的は杖歩行としました。

プールで泳ぎ、一時帰宅も実現。リハビリの効果を目の当たりにした回復ぶりでした。

リハビリはまず、ご自身の力で起き上がれるようにベッドの位置を変更することから始まりました。5秒間ほどのつかまり立ちはできていたので、ホームに戻られてからすぐにU字歩行器での歩行訓練を開始。はじめは息が上がっていましたが、何よりご本人の「早く歩けるようになりたい。」という思いが強く、また、水泳の指導者であったことから身体を動かすことには積極的で、疲れても「もう少し行ってみるわ!」と意欲を示されました。その結果、リハビリ開始後すぐに歩行距離は100mを超えていきました。 再転倒のリスクを減らすために、並行してパワーリハビリも実施。マシントレーニングによって歩行姿勢の矯正に取り組んだ結果、とうとう杖歩行ができるまでに回復しました。「外を歩けてとてもうれしい。」と屋外歩行も楽しまれるまでになりました。そして、この時点で、退院時には要介護度4だった介護度が要介護2に改善されました。 歩行状態も安定し、日に日に元気を取り戻される中でD様の心境に変化が。以前は「プールを見に行きたい。」と仰っていたのが、「泳ぎたい!」と仰るまでになりました。スタッフに加え息子様にご同行いただき、30年ぶりにプールへ。ブランクがあったとは思えないほどのD様の堂々とした泳ぎに、スタッフ一同驚き、感動しました。D様は「楽しかった。幸せです。」と素敵な笑顔を見せられ、一緒に泳がれた息子様も本当に喜ばれていました。 その後もリハビリを続け、とうとうもう一つのご希望であった一時帰宅も果たすことができました。 D様から「スタッフの皆さんが私と同じ道を歩いてくれたのが嬉しい。」とのお言葉をいただきました。介護は知識や技術だけでなく、ご入居者とスタッフが“こうなりたい”という目標に向かって共に歩むという心の持ち方が大切なのだと、あらためて気付くことができたエピソードでした。