高齢者に多い便秘。下剤ばかりに頼りすぎると・・・。
高齢者の便秘の原因は、「老化による腸内圧に対する感受性・収縮性の低下」「神経の鈍化」「脱水」が挙げられます。高齢者施設では、便秘解消のために下剤の服用に頼ることが多い傾向がありますが、安易な下剤の服用は下痢・便失禁に結びついてしまいます。高齢者にとって、排便コントロールを下剤だけに任せることは、当然のことながら身体的にも望ましくありません。下剤を服用されている方の中には、便失禁はもちろんのこと、腹痛を訴えたり、下痢をされたり、認知症の方では認知症状が強く現れたりする方もいらっしゃいます。
下剤に頼る排便を脱却するために行ったケア。
当ホームにご入居されていたC様は、ホーム内の移動は車いすをご使用になり、認知症もある方でした。1日の食事量は1,200Kcal程度で栄養補助剤を処方されており、便秘3日で峻下剤(強い下剤)を服用し、服用後は副作用による腹痛を伴う便失禁(軟便)をされるという状態でした。
そこで、私たちは、当社顧問である自立支援介護・パワーリハ学会の理事長である竹内孝仁氏が推奨する『便秘を解消する7つのケア』(※)を、看護師を主体としたチームで実践しました。
※下剤を使わずに便秘を解消するには、①規則的生活、②規則的な食生活と常食、③食物繊維、④水分1500ml以上摂取、⑤身体活動(歩行)、⑥定時排便、⑦座位排便が必要であるという理論。
7つのケアのうちC様ができていなかった3つのケアを実践しました。
①今までは食物繊維を1日平均14.5g摂取されていましたが、水溶性食物繊維を毎食5gずつ(3食計15g)を追加摂取することで、1日合計29.5g摂取していただくことに。
②体を動かすことで、大腸がぜん動運動を起こす起立大腸反射が活発なることから、車いすから歩行器歩行へ移行いたしました。
③峻下剤(強い下剤)の服用を中止いたしました。
「お通じに悩んでいたころとは全然違う。」と言って、外出にも積極的になられました。
A様に便秘を解消する7つのケアを実践したことで、目的にあった下剤を廃止し、事前排便ができるようになり、最終的には便失禁しない状態まで回復することができました。さらには食事量も増加し、要介護度も改善しました。
ご本人に排便ケアの取り組みについてお伺いしたところ、「便が出なかったときは、ずっとトイレに座っていないと出てこなかったけれど、今では自然に少しずつ(感覚が)戻ってきたというか…お通じに悩んでいたころとは全然違いますね。」と仰っていただきました。そして、今までは便失禁が怖くて消極的だった外出アクティビティにも、積極的にご参加いただけるようになりました。いちご狩りで、楽しそうに、おいしそうにイチゴを頬張るC様の笑顔を見て、下剤が高齢者の排便コントロールに与える影響の大きさ、そしてそれがそのままご本人のQOL(生活の質)に直結することに気付かされたエピソードでした。